絵本
「こどものとも」 通巻759号
シカのはいしゃさん
宮島 千夏 作
OUR DENTIST IS DR.DEER
Text & Illustration Chika Miyajima 2019
株式会社福音館書店
2019年6月1日発行
チンパンジーのちょちょまるくんは、幼稚園のみんなと、シカ先生の歯医者さんに歯磨き練習にやってきました。ちょちょまるくんは、ぐらぐらの前歯が虫歯かもしれない、と不安でいっぱい。乳歯の生え替わりのお話です。
私の父は80歳近くまで、現役の歯科医でした。でも、私はこどもの頃に虫歯がなく、父に治療してもらったことがありませんでした。
それが大学生の時、自転車で側溝にはまり転倒。前歯が大きく欠けてしまい、初めて父に歯を治療してもらいました。
それから時が過ぎ、父が歯科医を辞めた後に、その被せた歯が取れてしまいました。
近所の歯医者に行くと、取れた歯の土台があまりに大きくてびっくりされ、どこの歯医者の治療かと、聞かれるほど。私は父の遅れた技術が恥ずかしくて、父だとは言えませんでした。結局、大きな土台の上に、取れた歯を接着しました。
自宅とつながっていた父の診察室は、器具も古く、今のようなハイテクの機器もありませんでした。しかし、歯の模型や石膏の歯型、いろいろな器具があり、こどもの頃の私には、ワクワクする不思議な場所でした。
シカ先生の診察室は、田舎の父の古い診察室のイメージを重ねて描きました。
最近になり、私は別の歯医者で新しい差し歯の治療のため、土台を外すことになりました。先生は土台を外すのに、手こずった様子。土台に驚いてるだろうなあ。そう思っていると「土台がキッチリはまっていて、時間が掛かりましたが、隙間がなく、とても丁寧な治療がされてましたよ。」と、先生が感心して言いました。
父の治療してくれた歯がなくなり、亡父との繋がりがひとつなくなってしまったようで、寂しく思いますが、その代わりに、父の丁寧な仕事ぶりが改めて分かり、嬉しくもなりました。
そんな父を思い、この絵本を描きました。シカ先生は、優しい父の姿、そのものです。
「こどものとも年中向き」 通巻343号
クルトンさんとパンのきかんしゃ
宮島 千夏 作
CROUTON THE BAKER BAKES A LOCOMOTIVE Text & Illustration Chika Miyajima 2014
株式会社福音館書店
2014年10月1日発行
パン焼き釜と一緒に旅をしているクルトンさん。出会った相手にその場でパンを焼いてふるまう優しいパン屋さんです。ある町で、クルトンさんは、電車が止まって困っているサーカス団長とトラの子に出会います。クルトンさんは、ふたりのためにパンで機関車をつくります。
クルトンさんとパンのきかんしゃ韓国語版
子育てをしていると、子どもを通して知らない世界に出合うことがあります。虫、魚、車、それに釣りやサッカー、野球…。
次男は電車が大好きでした。遊園地のミニ電車に乗せると、短い線路を飽きもせずに何周も回っていました。そんなミニ電車が、今回クルトンさんが焼いたパンの機関車のイメージに繋がっています。
次男は小学生にらなると、友達と自分たちの鉄道会社を作り、調べた時刻表どおりに架空の電車を走らせたり、テープレコーダーを片手に電車を乗り継いで、駅の発車メロディを録り集めたりしました。それから寝台特急での旅を計画。何度か私と2人で旅に出ました。ただひたすら電車に乗るだけの旅。「こんな時間も今だけかな」と思いながら次男との旅を楽しみました。そして寝台特急のラストランの見送りで涙し、気がつけば、私は鉄道の世界にすっかりはまっていました。
次男も中学生になり、もう2人で旅をすることもなく、電車の絵本を一緒に読むこともなくなりました。そんな次男が、絵本を仕上げている私を見て「煙突からパンが飛び出すのは、僕のアイデアだったよね」と言い出しました。
うううん…?そうだったかなあ、と思いながらも、この作品ができたのは電車好きな次男との思い出のおかげかもしれません。
「こどものとも年中向き」 通巻312号
クルトンさんと はるのどうぶつたち
宮島 千夏 作
CROUTON THE BAKER BAKES FOR ANIMALS IN SPRING Text & Illustration Chika Miyajima 2012
株式会社福音館書店
2012年3月1日発行
クルトンさんは春になったら山の動物たちにパンを焼いてあげる約束をしていました。準備をして出かけたクルトンさんは、まず山の麓でうさぎ、たぬき、しかに、中腹ではりす、こうもり、ねずみにそれぞれ好物のパンを焼いてやります。山の頂上でくまに大きなパンを焼きますが起きてきません。みんなは大きな声で呼んで、くまを起こそうとしますが、やっぱり起きてきません。そこでクルトンさんは、パンでいろんな楽器を焼き、演奏します。
小学生の息子が、学校の授業で「ふれあいコンサート」に行ってきました。大ホールで本格的な演奏を聴いたのは初めてのことで、よほど感動したらしく、曲の感じやどんな楽器がどんな音だったかなど、楽しそうに話してくれました。そんな姿を見て、楽器を使って何か楽しいお話ができたらなあと思い……パンでできた楽器を動物たちが演奏する、このお話を思いつきました。
この絵本を制作中、私はアイデアという生地をこねて、頭のオーブンでたくさんのパンを焼きました。たとえば、クルトンさんがたぬきに焼いてあげた「ポンポコパン」は、たぬきのお腹をイメージしました。パンの真ん中をおへそのようにくぼめ、ドングリをつけました。
それぞれの動物たちが何を食べているのかを調べ、木の実やニンジンジュース、はちみつをパンの生地に混ぜたりしているうちに、頭の中でパンのレシピがどんどん浮かんできました。
楽器のパンはどんなパンか、みなさんも想像してみてください。「アコーディオン」のパンは、いろいろな具が挟まったハンバーガーから、「ラッパ」のパンは、コロネのパンの形から思いつきました。
「ギターの弦」は何でできているか、子どもたちに聞いてみてください。「ヤキソバの麺?」「お菓子のグミ?」……子どもたちが何と答えるか楽しみです。
さてさて、想像ばかりのパンでは、お腹いっぱいになりませんね。「クルトンさんのパン」をぜひ、一緒に焼いてみてください。
「こどものとも年中向き」 通巻193号
クルトンさんとつきのパン
宮島 千夏 作
CROUTON THE BAKER BAKES BIG BREADS FOR THE MOON Text & Illustration Chika Miyajima 2002
株式会社福音館書店
2002年4月1日発行
パン屋のクルトンさんのところに空の星から手紙が届きました。最近元気がない月のためにパンを焼いてほしいというのです。パン屋のクルトンさんは、大きなパンを焼いて気球にすると、空にのぼってパンを焼いてあげることにしました。雲を集めて小麦粉と混ぜて、三日月の形のパン生地をつくると、パン生地はどんどんふくらんで……。『パンやのクルトンさん』の第2作。
静岡県の掛川駅からローカル線に乗って行くと、緑豊かな森町という小さな町があります。
この町には森山焼きという4軒の窯元があり、私はその中の晴山陶房で修行をしていました。
そこには、大きな薪釜があり、年に数回窯焼きをしています。数日前から窯の温度を徐々に上げていき、1000度以上にします。最後の一晩は徹夜で、何百本の薪を焚き口に投げ込んでいきます。
休憩のひと時。ひんやりとした地面に寝ころんで体を休め、空の輝く星を眺めていました。薪窯の高い煙突を見上げていると、煙がどんどん月まで上がっていくような気がしました。
この時の夜空の光景が、「クルトンさんとつきのパン」のイメージのもとになっています。
ところで、「つきのパン」からどんなパンを想像されるでしょうか。蒸しパンのようなふっくらしたパン。メロンパンのような表面がさくさくしたパン。それともホットケーキのように少し焦げたパン?
私は最初、食べなくても、月の満ち欠けに合わせて、だんだんと欠けていくパンを考えました。
そうしたら、最近、新しくできたパン屋さんで、三日月形の「ルナッタ」というパンを見つけました。形のとおり、イタリア語で三日月という意味だそうです。アーモンドの入った甘いパンでした。
今回の絵本制作中、私は7年ぶりの妊娠で、とても穏やかな気分で、お話を考えることができました。
先日、刷り上がった「クルトンさんとつきのパン」の絵本を、小学2年生の長男がさっそく生まれたばかりの弟に読んで聞かせていました。
「こどものとも年中向き」 通巻165号
パンやのクルトンさん
宮島 千夏 作
CROUTON THE BAKER BAKES IN THE MOUNTAIN Text & Illustration Chika Miyajima 1999
株式会社福音館書店
1999年12月10日発行
パン屋のクルトンさんは、山の中で巣から落ちた鳥のためにパンで巣を焼いてあげました。すると、山じゅうの鳥が「ぼくたちにも焼いてよ!」。山のふもとはパンの巣でいっぱいになりました。山のまん中ではキツネたちにパンの服を焼いてやり、頂上ではクマにパンのふとんを焼いてやります。緑の山はすっかりパンの山になりました。でも次の日には……。丹念に描き込まれた心温まる絵本です。
パンやのクルトンさん韓国語版
子供のころから粘土で何かを作るのが好きだった私は、大人になって実家近くの陶芸の窯元に通うようになりました。陶芸といっても皿や茶碗を作るより、人形や靴、帽子の形をした花瓶や置物などを自由につくり方がおもしろく、粘土遊びの延長といったものでした。その後、初めてパン作りで発酵したパン生地をさわった時、その感触は粘土に似ていて、私の手は勝手にいろいろなものを作っていました。クルトンさんが、パンで鳥の巣や服、ふとんを作ってしまう発想は、こんな体験の中から出てきたものです。
ところで、私には絵本が大好きな五歳の息子がいます。絵本を通して過ごす親子の時間は、私にとっても楽しい時間です。
愉快な話やおいしそうな話には、顔がニコニコ、ニヤニヤし、少し怖い話になると真剣にこわがる息子の素直な反応を見ているうちに、自分が作った絵本を息子に読んでみたいという気持ちになってきました。こうして、「パンやのクルトンさん」の絵本を描き始めましたのです。
絵本が完成するとすぐに、その夜息子に読んでみました。
読み終えると息子は「パンのふとんが焼けたよ!」と言って、ふとんにもぐりこみ、ふとんの中でなにやら、もぞもぞ始めました。そのうちに「パンの家が焼けたよ!」とふとんから顔を出しました。すぐに空想の世界へはいってしまう子供の感覚が、とてもうらやましく思えました。息子はそのまま、パンの家にもぐって、すやすやと寝てしまいました。「おやすみなさい。小さなくまさん……」
一年間クルトンさんの絵を、とても楽しく描いていた私は、絵本が完成して、ほっとしたような、少し寂しいような気持ちです。そんな気分の時、息子がクルトンさんが向かっていき「つぎの町」の話を、自分で絵に描いてくれました。私はそれを見て、とても嬉しくなりました。この絵本を読んだ子供たちが「つぎの町」について、想像をいっぱいふくらませてくれたらいいなと思います。
いもむしくんがねむったら
宮島 千夏 作
When the caterpillar sleeps Text & Illustration Chika Miyajima 2004
株式会社 教育画劇
ISBN: 978-4-7746-0622-4
2004年7月発行
林の中で、虫たちが鬼ごっこをして遊んでいた。バッタさんがジャンプすると「ごつん」。いもむし君にぶつかってしまった。いもむし君も一緒に隠れんぼをすることになったが…。いもむし君の楽しい絵本。
いもむしくんがねむったら 韓国語版
メロン氏の一日
朝比奈 千夏 作
MR MELON’S DAILY FLOW Text & Illustration Chika Asahina 1993
トムズボックス
1993年9月発行
メロン柄の服を着た、陽気なメロン氏の不思議な1日を描いた絵本です。種ではなく、卵を植木鉢で育てると、不思議な鳥たちが生まれる愉快でシュールなメロン氏の一日。